極北カナダ・ユーコン準州より、野生動物の撮影活動や極北での暮らしについて綴っています。

2012年2月20日月曜日

Yukon Quest 2012 ①

書きたいことが山ほどあるときというのはかえってなかなか筆が進まないものだったりします。頭の中を駆け巡る想いを整理するのに時間がかかるので。。。今年のYukon Questは正にそんなレースでした。

日本では馴染みがないかもしれませんが、Yukon Questとは私の住むカナダ・ユーコン準州・ホワイトホースとアラスカ・フェアバンクス間で毎年2月に行われる全長1,000マイル(1,600km)の犬ぞりレースです。私も極北に興味を持つ者として随分前からその存在は知っていましたが、野生動物の撮影に注力するあまり詳しいことはよく知りませんでした…この地に住むようになるまでは。。。

この地に越してきた2010年2月。まだ住むところも見付からず、仕事も無く、先が全く見えない不安の中で見に行ったのがYukon Questでした。このレースは毎年ホワイトホースとフェアバンクスでスタートとゴールを入れ替えながら行われます。この年はホワイトホースがゴール。そろそろトップがゴールするらしいと聞き付けてフィニッシュ・ラインへ向かいました。マッシャー(犬ぞり師)の名前すら知らない状態でしたが、トップで戻ってきたのが地元のマッシャーで4度目の優勝と知り、地元の人たちの熱狂の渦に圧倒されたのを覚えています。

2010年2月 - 初めて見たYukon Quest。優勝者ハンス・ガットのゴール・シーン

その後、生活のために始めた仕事場で知り合ったのが『本多有香』という日本人女性でした。彼女がマッシャーでYukon Questに出たことがあり、その頃は次回の出場へ向けて準備中だということも聞いていました。まだYukon Questのことをよく知らなかった私は最初、「物好きな人もいるもんだ。」「でもこの人熱いぞ。面白そう…。」と感じたことを思い出します。

日々の生活の中で毎日のように彼女と顔を合わせるようになったので、私も自然とYukon Questに関心を持つようになっていきました。さらにこの年のレースの模様がNHKによって取材されていて、後からDVDを借りて放送を見る機会もあり、なかなか見ることの出来ないレース中の様子を写真ではなく映像で見ることが出来、マッシャーの駆け引きの様子も上手く収められていたので一気に知識が深まっていきました。

そして迎えた2011年2月。この年のスタートはホワイトホース。ゴールでは各チームが数日間にわたってバラバラと到着するのに対し、 スタート時は全チームが一堂に会するので圧巻でした。
本多有香はと言いますと、本レース出場を2012年に定めており、この年は若い犬達に経験を積ませるためにジュニア・レースであるQuest 300という300マイルのレースに練習出場し、無事完走しました。

2011年2月 - Quest 300のスタートを待つ本多有香

2011年2月 - Quest 300のスタートを切る本多有香


彼女は元々アラスカ側を拠点に活動していました。しかし、アメリカ合衆国の一部であるアラスカは周知の通り永住権の取得は困難で、アラスカと日本を行ったり来たりの生活が続いていたそうです。こちらで定住できる拠点を築かなければならないという思いから、慣れ親しんだアラスカの環境を離れ、カナダ・ユーコンへ単身乗り込んで来ました。アラスカで多くの人が彼女を支えたように、ユーコンでも彼女の情熱に引き寄せられた人々が次第に集まり多くの人が彼女をサポートするようになりました。土地を借り、キャビンを建て、自らのKennel(犬舎)を作り上げました。平行してカナダ移民権も取得し、文字通り自らの『拠点』を築き上げたのです。

それまで築き上げた全てを一度手放し、ゼロからの再出発…。その状況は私の直面していた状況にも重なり、特別な共感の思いを抱いて応援していました。
同じ職場で働いたのは約一年。ほとんど時を同じくして二人ともその仕事を辞めたため、頻繁に顔を合わせる事は無くなりました。常に何かしら力になれたらと思いつつも、私自身もまだまだ不安定な状況が続いていたのでほとんど何もしてあげられませんでした。
昨夏、私がようやく機材を揃え直し撮影活動を再開したとき、それを私の妻から聞いた彼女は喜んでくれていたと聞きました。彼女も少なからず共感の思いで私を応援してくれていたのかも知れません。

そして2011年の終わり、彼女が2012年のYukon Questにエントリーしたという知らせが入りました。
ついに『時が来た』のです。。。


つづく


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