極北カナダ・ユーコン準州より、野生動物の撮影活動や極北での暮らしについて綴っています。

2012年3月16日金曜日

フォックスファイヤー【Foxfire】フィールドスタッフ

この度日本のアウトドア・ブランド『フォックスファイヤー【Foxfire】』のフィールドスタッフになりました。
写真好きの方ならご存知かと思いますが、アウトドア・ウェア以外にもフォト・ジャケット、フォト・ベスト、カメラ・バッグ&ザック等、ネイチャー・フォトグラファー向けの撮影用ギアを作っています。

写っているのは私ではありません。念のため(笑)。


もともとフライフィッシング用ベストから始まったこのブランド。以下『ブランド・ヒストリー』から同ブランドの理念の転載です。

“フライフィッシングは代表的なクワイエットスポーツのひとつといえます。それは、「自然への挑戦」や「自然の征服」とは異なり、「自然との融和」「自然と の共生」をなす知恵から発生しています。そして、それはフォックスファイヤー総てのもの造りの思想やテクノロジーに結びついています。”

私のスタンスと共通するこのブランドは以前から好きだったのですが、まだ日本にいた2004年~2005年頃、撮影資金作りのために同ブランドのショップで一年間アルバイトさせてもらった経緯があります。最近になって当時の縁が復活し、今回の運びとなりました。

『フィールドスタッフ』の役割ですが、同ブランド製品のPR、製品使用レポート、同社ウェブサイト内ブログへの寄稿などです。写真家の場合はフォトスクールでの講師なども役割の一つですが、私は日本から遠く離れているので今のところ講師の予定はありません。当面はブログへの寄稿からということになります。掲載されたらこちらでも随時お知らせしていきます。
既存の海外在住フィールドスタッフもいないわけではないようですが少ないようで、どういう活動が出来るのか双方手探りの状態です。言い換えればいろんな可能性があるとも言えるのでアイデアを出しつつ楽しみながらやっていきたいと思います。
あわよくば、撮影現場からのフィードバックとして『自分が欲しいもの』を提案し、商品企画・開発段階から関わっていけたらなあと夢見ております。

2012年3月6日火曜日

Yukon Quest 2012 ④

2012年2月16日。
朝起きて日課となったオンラインでの本多有香の位置確認をすると、無事にホワイトホースの近くまで来ていました。残りの距離と平均速度などを考慮して到着時刻を予想せねばなりません。
特にこの日は仕事があったので、休むか途中で抜けるかなど難しい判断を迫られました。
私の予想は午後3時過ぎ着。結局途中で仕事を抜けることにして出勤し、午後2時40分ごろ仕事を抜けてフィニッシュ・ラインまで車を飛ばしました。
祈る思いで車を止めフィニッシュ・ラインに走って向かう途中、前から友人が歩いてきました。
「有香さんは?!」
「5分ほど前に着いたよ。」

・・・『一生の不覚』とは正にこのこと。。。
12日間(気持ちだけですが)一緒に走り続けて、歴史的なゴールの瞬間を見逃してしまいました。
フィニッシュ・ラインの先にある撤収エリアへ向かうとそこに元気な本多有香の姿がありました。
13頭立てでスタートし、最後のチェックポイントで8頭まで減っていた犬たちは、更に1頭減って7頭になっていました。
憔悴し切ってフラフラで辿り着くんじゃないかと予想していたのですが、意外や意外。本人は至って元気でまだまだ走れそうな様子。ビール片手に終始満面の笑みを浮かべていました。

私と同じく仕事だった妻もゴールの瞬間こそ見逃したものの、フィニッシュ・ライン上の彼女をかろうじて写真に収めてくれていました。さすが相方、感謝感謝。

ゴール直後の本多有香。(妻による撮影)

初完走後満面の笑みを振りまく本多有香。

2012年2月16日 午後2時37分 -本多有香24チーム中15位にてユーコン・クエスト【Yukon Quest】初完走。

過去のレースで彼女は不運に見舞われ、つらい想いもしてきました。(それらに関しては私も過去の記録や記事で知るのみです。)そして今回のレースも決して容易なものではなかったはずです。彼女のリード・ドッグはレース前に怪我をしてしまい出場出来ませんでした。また、スタートから243マイル(約390km)地点のチェック・ポイントではチームの内の1頭が妊娠していることが判明します。(レース中にホワイトホース地元新聞の一面にカラー写真入りでトップ・ニュースとして報じられました。)先にも述べたとおり、13頭立てでスタートしたチームはゴール時には7頭にまで減っていました。しかしユーコンからの出場者としては一番にゴールした彼女は過去の経歴も手伝ってこの田舎町で一躍『時の人』となり、ゴールの様子もまた同紙の一面を飾りました。元々実直で純粋に犬ぞりに懸ける彼女の姿勢は求心力があり、彼女を知った人は彼女を応援せずにはいられなくなります。今やこの町の多くの人が彼女の存在を知り、彼女は自分の成し遂げた実績で更なるサポーターを獲得したのです。

翌日の夜、【Post Meet the Mushers】 という、マッシャーに直接会えるイベントがあったので私も顔を出しました。行った時間が遅かったので人も減っており、多くのマッシャーも引き上げてしまっていましたが、本多有香と2012年チャンプのヒュー・ネフ【Hugh Neff】はまだいました。
この時ようやくレース後まともに話せたので、「おめでとう!」とガッチリ握手しました。
応援したい気持ちは山ほどあったのに、われわれ家族も新天地での基盤作りに精一杯で結局何もしてあげられなかったと残念に思っていました。
しかし彼女は開口一番我々にお礼を言い始めたのです。
「“あれ”がなかったらフェアバンクスに行けずスタートさえ切れなかったんで・・・ありがとうございました。」
“あれ”とは、2010年の夏に彼女が困り果てているとき、我々夫婦が彼女にしてあげることの出来たたった一つのことでした。時間もお金も無かったので物理的にも金銭的にも手助けしてこれませんでしたが、そのときだけは我々にも出来ること・・・『知恵』を使ってその問題を解決してあげることが出来たのでした。レース直後の舞い上がっているときにそのときのことをちゃんと覚えていてお礼を言ってもらえたこと、彼女の成し遂げた偉業に少なからず貢献出来ていたと実感出来たことで少し目頭が熱くなりました。
“あれ”が何だったのかは彼女と我々夫婦だけの秘密です。。。

その後、人が引いていたのでヒュー・ネフ【Hugh Neff】と少し話をすることが出来ました。ユーコンやアラスカでユーコン・クエスト【Yukon Quest】に出場するマッシャーといえば一目置かれる憧れの存在で、ましてやヒューは優勝者。緊張しながら話し掛けましたが拍子抜けするほど気さくな人で、どこにでもいる近所のオッサンのようでした。『凄い』のに全く飾らない・・・庶民的なこの身近さがまた犬ぞりレースの魅力の一つかも知れません。ヒューが有香さんと話しているときにお願いしてツー・ショットを撮らせてもらい、ついでにお願いすると我々家族との記念撮影にも気軽に応じてくれました。そしてこの日から私のジャケットの背中には二人の誇らしいマッシャーのサインが輝いています。

ヒュー・ネフと本多有香。

これからは『情熱』の大切さを常に背中に感じつつ…

夢を現実にしていく様子を目の前で繰り広げてくれた本多有香。しかし私が知っているのはここ数年の彼女でしかありません。どんな経緯で今に至るのか誰しも気になるところでしょう。
大学3年生のときにオーロラを観に行ったカナダ・イエローナイフで犬ぞりと出会い、1998年に25歳で犬ぞりを習得するため単身カナダ/アラスカに乗り込むと、2006年にYukon Quest初出場を果たし、2007年、2009年に続く4度目の挑戦にして今回初めて完走を果たしました。
彼女の経歴について詳しいインタビュー記事を見付けましたので以下のサイトを是非ご覧下さい。
FAUST ADVENTURERS' GUILD - 大好きな犬たちと冒険できることは、私にとって何物にもかえがたい時間です - (2011年9月)
Earth Dreaming~ガラスの地球を救え~ - (2006年7月・8月)


大なり小なり夢は誰しも抱くもの。夢を叶える人というのは叶えられない人と何が違うのでしょう。
今回ユーコン・クエスト【Yukon Quest】という壮大な競技を通して本多有香、ヒュー・ネフ【Hugh Neff】、ランス・マッキー【Lance Mackey】という夢を叶えた人たちを見てきました。彼らに共通しているのは・・・ありきたりな表現ですが『不屈の情熱を持っている』ということでしょう。そして彼らは『情熱』というものが必ずしも「強く激しく燃える想い」だけを指すのではないのだということを教えてくれました。本人にどんなにやる気があっても、自分を取り巻く環境、生活、家族、健康問題、経済的問題、法律問題など、自分の思うようにいかない事のほうがほとんどかもしれません。そこで腐ってしまうこともあるでしょう。しかしどんなにつらい状況にあっても夢を諦めない強い意志・・・それは激しい風雨に晒されて燻ぶったとしても消えることなくまた燃え上がるしぶとい森林火災の火のような・・・そういうものかもしれません。夢を叶えられない人はどこかで限界を感じ諦めてしまいます。しかしその『限界』を決めてしまうのは本人に他ならないと思うのです。諸般の事情で当初の予定通り・計画通りにいかなかったとしても、少しやり方を変えてまた夢の実現に向かう・・・そういう粘り強さと執念とも言うべき『情熱』を持つ者だけが、最後に夢を勝ち取れるのかもしれません。

果たして夢を叶えた者は次へどこへ向かうのか。
そこで燃え尽きる人も満足してしまう人もいるのかもしれませんが、彼らは既に次へ向けて動き出しています。
また来年、今度はホワイトホースのスタート・ラインで彼らの雄姿を見る日を今から心待ちにしています。 

おわり




あとがき:
ホワイトホースへ越してきて2年、3度目にして初めてユーコン・クエスト【Yukon Quest】を最初から最後まで追いました。本多有香という人との出会いもあり、回を重ねるごとにユーコン・クエストへの興味・関心は深まっていきました。今回のクエストのあと、いろんな思いが頭を駆け巡り、ブログに綴り始めました。それは、『写真』が私にとって「撮らずにはいられない」表現の手段であるのと同じで、「書かずにはいられない」という感覚でした。それは彼らが与えてくれた『感動』を伝えたかったのもありますが、それ以上に彼らを通して感じた『情熱』の大切さを伝えたかったように思います。更にはその『情熱』、特に友である本多有香の『情熱』に少しでも力になれはしないか・・・という思いもあります。私がそうであったように、日本において犬ぞりレースはほとんど認知されていないと思います。私の書くブログなど果たして何人の人の目に触れるのかわかりませんが、それでもユーコン・クエスト【Yukon Quest】を始めとする犬ぞりレースと本多有香というマッシャーのことを一人でも多くの人に知ってもらえればと思い書きました。一見華やかな競技ですが、多額の資金を必要とするのは言うまでもありません。何が起こるかわからないのがインターネットの世界・・・。正直なところ、このレポートを読んで共感して下さった方がこれを拡散してくれることも暗に期待しています。逆に全く別のところから犬ぞりに興味を持った人が検索してここに辿り着くかもしれません。企業・個人、どなたでも本多有香に興味を持ちスポンサーを名乗り出て頂けるなら、悦んで取り次がせて頂きます。宜しくお願いします。また、本多有香のファンになったぞという方は今後も彼女の活動を一緒に応援しましょう。